「そうじゃないよ……」
「好きなのは何度も見るものだって薫言ってたもんな」
この言葉に私は今また複雑な顔をしているかもしれない。
氷室さんに好きの気持ちを否定されてから作品に対する熱意が冷めてしまった。そうはっきり蒼くんに言ったことはないけれど前ほどの熱がないことを察しているのかと思ったのに。
それとも、私がいつまでもオタクでいると思って嫌みで言ったのだろうか。
「ちょっとお手洗い借ります」
「うん」
立ち上がって洗面所に行くと鏡に映った私の顔は目に生気がなかった。これでは退屈そうにしていると思われても仕方がない。
いつまで恋人ごっこを続ければいいのか。蒼くんは私をからかうのをやめる様子がないし、私は蒼くんのそばにいることに疲れてしまう。
ふと洗面台のラックを見ると化粧水やクリームが複数置いてあるのが目に入った。蒼くんが使うには量が多いし、何よりも女性をターゲットにした商品であることに気分が落ち込む。
こんなに種類が置いてあるなんて女性が時々泊まりに来るって程度じゃない。
私のことを忘れたことなかったって言ったくせに、この家に頻繁に入れるほど女性と深い付き合いをしていたんじゃないか。
蒼くんのところに戻ると映画はもうクライマックスシーンを迎えていた。
土方が裏切り者の隊士と切り合う。原作を読んでいた頃は大興奮したシーンだ。
あの頃は楽しかったな。
好きなマンガの話を香菜として、蒼くんと付き合って、趣味のお菓子を作って。
今また高校生に戻れるなら蒼くんとは絶対に付き合わないのに。
エンドロールが流れると私は荷物をまとめ始めた。
「もう帰るの?」
蒼くんが寂しそうな声を出す。



