キッチンに立つ私を蒼くんはニコニコと見つめる。テーブルに料理を盛ったお皿を載せると「こういうのいいなー」と呟く。
「薫が家に居てご飯作ってくれるとか最高」
「今までの彼女に作ってもらったことなかったの?」
「あー……あったけど……薫ほど美味くないよ」
私が今まで蒼くんにあげたのはお菓子だけだったのに、料理が歴代の彼女に勝っているなんてどうして言えるのだろう。そんな分かりやすいお世辞なんて言わないでいのに。
キッチンを見る限り、氷室さんだってかなり料理を作っていたはず。
「元カノの話はいいって。俺が今付き合ってるのは薫じゃん」
蒼くんは気まずそうな顔をして私の作ったおかずを口に入れると「ほんと美味しいよ!」と笑顔を見せた。
「薫が考えたスイーツ、今度店に行って買ってみるね」
「うん。よろしく」
あからさまに話題を変えようとするので私はわざと蒼くんを困らせたくなった。
「あのね、時々こうしてご飯作りに来てもいい?」
「大歓迎!」
その答えを聞いて私は思わず口元が緩む。
「じゃあ、蒼くんが良ければお願いがあるんだけど……」
「何?」
「この部屋の合鍵が欲しい」
「え……」
「だめかな? 恋人の部屋の鍵を持つって憧れがあって」
私の言葉に蒼くんは照れながらも困った顔になる。
「うん……合鍵そのうち作って渡すね」
「今合鍵ないの?」
「あーうん……なくしちゃって、今使ってるのが予備の鍵なんだ」
それが嘘だって気づいているけれど「そうなんだ。じゃあ待ってるね」と明るい声を出した。
きっと合鍵は氷室さんが持っている。だから私に渡すことができないんだ。
また鍵を作って私にくれるのか楽しみだ。本当の恋人が来る家に私を頻繁に入れてくれるだろうかと。



