おうちデートがしたいという蒼くんの要望に応えて彼の家でご飯を作ることにした。デザートのゼリーは私の家で作ったものを持ってきたけれど、今からこの慣れないキッチンで恋人のご飯を作る。
蒼くんの部屋は大学のときに住んでいたアパートからは引っ越していて、今は職場に近いというマンションだった。部屋の中はキレイに片付いていて、キッチン用品も一通り揃っている。
「蒼くん自炊ちゃんとするんだね。私が作らなくても自分で作れるんじゃない?」
「え……うん。時間ある時は……」
歯切れの悪い答えを不審に思いながらも味噌汁用の出汁パックを鍋に入れる。
コンロの下の扉の中には大きさの違うフライパンと鍋が複数しまわれている。調味料もたくさんあってきちんと家で料理をしている印象を受けた。
盛り付けをしようと食器棚を開けるとお皿もシンプルなものから柄が入ったものまで整頓されている。
その一つを思わず手に取ってしまった。手のひらと同じ大きさの平皿は縁にピンクの花の模様が入っている。それは男性の一人暮らしには向かないデザインだ。
食器棚の中を見るとどの食器も2つずつ揃えられている。
ペアの茶碗にペアのマグカップ。箸も男性が使うとは思えない色が混じっている。
私が来る日のために用意してくれたとは思えない。お皿の表面は使い込まれた証拠に薄っすら傷がついている。
この部屋には誰かと住んでいる痕跡がある。
手に持つお皿を落としそうになり力を込めた。
分かっていたことじゃない。今更驚かない。
相手は氷室さんかな。私が来る時間だけどこかに出ているんだ。



