タイミング悪く元カノから電話がかかってきたことに動揺した。俺の中では紗枝ととっくに終わっているのに、薫との大事な時間の最中に水を差されたようで着信を切った。
「出なくていいの?」
薫が恐る恐る聞くから「大丈夫」と今度は俺が無理矢理笑顔を作って返した。
「氷室さんとまだ連絡とってるんだね」
「いや全然! 今久しぶりにかかってきた!」
不自然なほど否定してしまった。
薫はなぜか悲しそうな顔で下を向く。それっきり何も話さなくなってしまったから、もしかして薫は俺と紗枝が付き合っていたことを知っているのではないかと思った。翔か香菜から何か聞いているのだとしたら薫に変に誤解されてしまうかもしれない。
「薫?」
「…………」
「薫」
思わず何度も名前を呼んだ。どうしても俺を見てほしくて。
顔を上げた薫はいつも通り笑顔に戻った。
「ごめん、酔ったみたい」
「お水もらう?」
「うん、お願い」
俺は慌てて立ち上がり、厨房近くにいる店員にお冷を頼むと同時に会計をお願いする。
酔った薫をこれ以上疲れさせたくないから早く家に送って行こうと思う。
店を出て駅までの道を歩き出すと薫が俺の手を握ってきた。積極的に触れてくれたことに安堵した。何も言ってくれないけれど少なくとも今日のデートは失敗ではなかったのかもしれない。
「ここでいいよ」
駅に着くと薫は同じホームに行こうとする俺を制した。
「送っていく」
「大丈夫。いつも悪いから」
「俺が送っていきたいからいいの」



