「薫、疲れた?」
「え?」
「元気ないように見えるから」
「ごめんね……楽しかったから疲れちゃった」
「そっか……」
嘘だってバレバレなのに薫は「これも食べたい」と不自然な笑顔で店員さんを呼ぶ。
どうして無理するんだ。言いたいことがあるのなら言ってくれた方が嬉しいのに。
外で遊ぶと疲れてしまうなら家の中なら落ち着いていられるのだろうか。
「あのさ、今度はおうちデートにしない?」
そう切り出すと薫は驚いたような顔をする。
「薫のご飯食べたいし」
「でも私実家だから……」
「もちろん、俺んちで」
「あ……そうだね……」
乗り気じゃなさそうな顔と声に増々不安になる。
家に誘うのはまだ早かっただろうか。がっついてると思われたら薫は離れてしまうかもしれないのに。
焦りたくないのに焦ってしまう。だってもっと俺を意識してほしい。もっと俺の中に踏み込んでほしいし、薫の気持ちをもっと知りたい。
「家じゃなくてもいいんだ。薫が疲れちゃうと思って家の方がいいと思っただけだから」
俺は慌ててスマートフォンを手に取った。
「薫と行ってみたいところをピックアップしたんだ。ほら」
気になっていた観光地のホームページを見せようと薫に画面を向けると電話がかかってきてスマートフォンが震えた。その瞬間薫の顔から血の気が引いた。
薫からスマートフォンを離して画面を見ると『着信 氷室紗枝』と表示されている。



