「俺さ、マンガの続きを読んでないんだ。薫に貸してもらうつもりだったから。最終巻までよかったら貸してよ」
「うん……そうだね……」
俺がマンガを読むと「布教に成功」と喜んでくれたのに、今の状況はまるで俺の方がオタクだ。
翔たちと一緒に見に行った劇場版の第二作目を観ることができなかった。作品を嫌いになったからじゃない。劇場版の広告を目にするたびに薫を思い出して辛かった。
無表情のままの薫は俺と離れた間に趣味趣向が変わってしまったのだろうか。
そうだ、お揃いで買ったキーホルダーを紗枝にあげてしまったんだ。
俺との思い出の一部をどこかに落としたと誤魔化した薫はあの時からもう俺にうんざりしていたのだろうか。
あの時と同じキーホルダーはもうショップには置いていなくて、失った時間を憂いて「出ようか」と言うと薫は静かに「そうだね」と呟いた。
公式ショップを出るともうマンガの話を一切しなくなった俺たちは自然と駅の方に向かっていた。
黙り込んでしまった薫に不安が募る。
俺は何を間違えたのだろう。お昼を食べるまでは順調だった。薫の好きなものを堪能できるところに行ったはずなのに。
このまま別れるのは寂しくて「早いけど飯食ってく?」と引き留めてしまう。
「そうだね……」
無理矢理笑顔を作って声を絞り出しているように感じたから「やっぱり帰る」と言われるかもしれない怖さを感じる。だからさっさと店を決めて開店したばかりの店内に案内され薫が座るのを見届けるまで落ち着かない。



