高校生の時の初めてのキスはキスだと自覚する前に唇が離れていった。でも今は大事なものを扱うように優しく抱きしめられて蒼くんをちゃんと感じる。
緊張と求められる嬉しさで体から力が抜けそうだ。一瞬のキスじゃなくて、私を好きになってくれた人とのキスがこんなにも胸がいっぱいになるなんて初めて知った。
数秒間重なった唇を蒼くんは名残惜しそうに離すと私の肩に頭を載せ「やっと堂々とできた……」と呟いた。
「好きだよ薫」
耳元で囁かれた言葉に胸が苦しくなる。蒼くんの気持ちが嬉しい。だけどまた傷つくのが怖い。
「あり……がと……」
それだけ言うのが精いっぱいだ。蒼くんは肩にぐっと頭を押し付ける。私が蒼くんの気持ちに戸惑っていることを感じたのかもしれない。
顔を上げると私と目を合わせる。
「今のキスはちゃんとカウントしてほしい」
「え?」
「なかったことにしないで、薫の記憶に刻んで。俺にとっては大事なキスだから」
目の前の蒼くんが霞んで見えてきた。
最初のキスをノーカウントにした私に蒼くんは「なかったことにするなと」怒鳴った。
罰ゲームで付き合った私とのキスなんて忘れてほしかった。だけど蒼くんは私の言葉を忘れていなかった。
「……なかったことにはしない」
「お願いします」
真剣な目に私は頷いた。
私のことだけを考えていてくれた蒼くんを疑っていたことが申し訳なくなる。また傷つけに来たと疑い続ける私に蒼くんは真摯に想いを伝えてくれたのに、好きにならせて振ってやるなんて思い上がった最低な考えだった。
蒼くんのことをちゃんと考える。今度は前向きに、恋人として。
全部、やり直してみるのもいいかもしれないと思い始めた。