「俺が追い払おうか?」

「大丈夫です。悪い人ではないので……」

「日野が困ってそうなのに?」

冬木さんの好奇心剥き出しの視線に言葉が詰まる。

「付き合ってたといえばそうなのかもしれませんが……」

私は冬木さんに蒼くんとのことを簡単に話した。罰ゲームの告白を勘違いして蒼くんが本気で付き合ってくれていたと思い込んでいたなんて、恥ずかしくて小声で説明する。言いにくいことを敢えて言うのは冬木さんに蒼くんとのことを変に誤解されたくないから。

「それは元カレが悪いな。だって日野はちゃんと好きだったんでしょ?」

「まあ……」

「冬木さんは元カノさんをずっと想ってて素敵です」

そう言うと冬木さんは苦笑する。
別れた彼女を今でも好きでいる冬木さんの一途さに私は惹かれている。

「私もそんな風に大事にされてみたいです」

「でも日野の元カレも同じじゃん。やり直そうって言ってくれてんでしょ? それって日野のことをずっと忘れてなかったってことじゃん」

「そうですけど……罪悪感からかな? とか……」

「どうでもいい人なら傷つけてそのまま消えるのに、会いに来てくれたじゃん。今夜も約束してるんでしょ? ずっと待ってるよ」

「え? 今何時ですか?」

「定時はとっくに過ぎてるよ」

「うそ!?」

時間を忘れてトラブルに対応していた。慌てていたからスマートフォンも調理室のロッカーに入れたままだ。蒼くんに連絡するということを失念していた。

「ごめん、言おうと思ったんだけど、日野が迷惑そうにしてるんなら追い払おうと思って黙ってた」

「すみません……」

「悪かったな、残業させて」

「いえ……仕事ですし、緊急事態ですから……」