「薫、お願いだからどこかで落ち着いて話そう」
「嫌だ……もう話したくない……私は蒼くんを怒らせちゃうことしか言えないから」
「頼む」
「笑われるのって……辛いんだから……」
そう言うと薫は突然走り出した。反応が遅れた俺が足を踏み出すと薫はもう人混みに紛れて見えなくなってしまった。
いつまでも薫が消えた方向を見ながら動けないでいた。
謝罪……何を謝ればいいんだ? 薫を罰ゲームの対象にしたこと? 気持ちがないのに付き合ってって言ったこと? いつまでも本当のことを言わなかったこと? 好きだって言わなかったこと?
でも俺は謝れなかった。だって罰ゲームがきっかけでも薫と付き合えたことは俺にとっては大きいことだった。薫を好きになれたことを悪いことだと思えなかったから。
薫が帰った後の学園祭のステージはボロボロだった。
体育館にギリギリで戻ると慌ててステージに立ち、動揺したままステップを間違え盛大に転んだ。すぐ横で踊るメンバーにぶつかり、勢いよく倒れて肩を床に打ち付け、足を捻挫した。
ステージをぶち壊したことが申し訳なくて俺はその日でサークルを辞めた。
薫に連絡を取ろうと何度も電話をかけたけれど応答がなく、折り返しかかってくることもなかった。LINEを送ると既読にもならず返信がなかった。
俺を拒否しているのだと理解して落ち込んだ。話がしたいのに薫から俺に連絡してこないとどうすることもできない。
薫に振られたのだろうか。嘘をついたのだから仕方がない。仕方がないけれど薫に俺の気持ちをちゃんと伝えたかった。その機会がなくなってしまうことがもどかしくて、薫のことを忘れようとしても忘れられない。まだ俺は別れることに納得していないのに。