「ドレスのおかげでしょ。メイクもちゃんとしてるし……」

体のラインを綺麗に見せるネイビーのドレスに濃いメイク。香菜の結婚式のために気合を入れたのだ。決して蒼くんが出席すると知っていたからではない。

「それだけじゃないよ。前から薫は可愛かったし、他の男もそれに気づくんじゃないかって不安に……」

「もういいって!」

必死に私を褒めようとするから慌てて遮る。
機嫌を取ろうとしなくていいのだ。魅力がないのは自分が一番よく知っている。

「…………」

蒼くんは何かを言いたそうだったけど、眉間にしわを寄せる私の顔を見て容姿を褒めるのを諦めたようだ。

「薫を忘れたことはなかった」

「調子の良いこと言って……また嘘だってわかってるから……」

絶対に蒼くんに心を許さない。褒め言葉も復縁を迫る言葉も、何もかも私には響かない。

「告白してきたときもみんなそばに居たんでしょ。今も見えないところで罰ゲームの相手にされた私のことを笑ってる?」

蒼くんが傷ついた顔をする。けれど私だってまだ傷が癒えない。

「さようなら。もう追いかけてこないで」

私は蒼くんに背を向けて駅までの道を早足で歩いた。蒼くんはもうついてきていない。

昨日まで何度も何度も想像した再会のシチュエーションには程遠い。
笑われるか怒鳴られるかしか考えられなかったから、やり直したいだなんて言われるとは思っていなかった。

家に帰ってお風呂に入っている間に知らない番号から着信があった。留守電にも何もメッセージのない着信に折り返すことができなかった。誰からの電話なのかがなんとなくわかったから。
私はとっくに番号を消したのに、蒼くんは今でも私の番号を登録していたのだろう。

蒼くんが望む復縁ができるほど私のメンタルは強くないのだ。