罰恋リフレイン


大事なものを平気で奪われる。酷い言葉を浴びせられる。私のように地味でオタクな女はバカにされるのが当たり前なのだろうか。

もう氷室さんは廊下の角を曲がってしまい姿が見えなくなった。蒼くんとお揃いで買ったキーホルダーは氷室さんに奪われてしまった。
あれは特別なものだった。好きなマンガのキャラクターというだけじゃない。蒼くんとの思い出のキーホルダーなのに。



◇◇◇◇◇



調理師専門学校に進学した私は毎日実習で忙しく、隣県の大学に通うために一人暮らしになった蒼くんはバイトを始めて忙しくしているようだった。

滅多に会う時間が取れないことを不安に思っていた時、蒼くんの大学の学園祭に来ないかと誘われた。大学でもダンスを続けていて、ステージを見に来てほしいと言われたら断るわけがない。

正門から中に入って総合体育館に向かっていることを蒼くんにLINEすると迎えに来てくれた。

「ごめんね、直前なのに迎えに来てくれて」

「まだ時間あるから大丈夫。来てくれてありがとう」

「これ、焼いてきたの。発表終わったら食べて」

私は自宅で焼いたガトーショコラが入った小さな箱を蒼くんに手渡した。

「ありがと。薫のお菓子食べるの久々で嬉しい」

蒼くんが喜んでくれる顔を見るのは嬉しい。

ステージ発表直前の蒼くんは赤と黒の衣装を着ていつも以上にかっこよく見える。
久しぶりに会えたことも、隠さないで堂々と横を歩けることも嬉しくて、体育館まで一緒に行く間に胸がいっぱいになる。

体育館の前で蒼くんと別れて中に入ると広い体育館はパイプ椅子で埋め尽くされている。
私の通う専門学校にはイベントらしいものがなく、校舎も大学ほど広くないから緊張する。