その理由を言おうとして口を噤んだ。このまま氷室さんが私の勘違いだと思ってくれていればやり過ごせるのではないか。
「たとえ本当に付き合ってても、夏城くんにとって日野さんは周りに知られたくない相手ってことじゃん。普通彼女を隠したりしないでしょ」
「っ……」
言葉を失う。
蒼くんは卒業まで私と付き合っていることを隠そうとするのは、私の存在が恥ずかしいからなのだろうか。
手に握ったままのお札を氷室さんに突き返す。
「お金はいらないからキーホルダー返して!」
氷室さんの言葉を打ち消すように強気で迫った。
「無理矢理奪うなんて強盗じゃん! お金で解決できるなんて私は思ってないから!」
氷室さんが不快になるように敢えて酷い言い方をする。私が傷ついて怒っていることを知ってほしかった。けれど氷室さんは冷たい表情を私に向け、突き返されたお札を財布にしまった。
「そうだよ。私強盗なの。日野さんが嫌いだからキーホルダーは盗んでいくから。絶対に返さない」
そう言って私に背を向けて離れていきそうになるから慌てて氷室さんの手を掴んで引き留めた。
「待って! 返して!」
「放せ! 触んじゃねー! キモいんだよ!」
キモいと言われて体が固まる。
「キモオタクが夏城くんに近づくんじゃねーよ! キモいアニメキャラとイチャついてろ!」
私が好きなものをキモイと言われて全身から力が抜ける。氷室さんは私が掴んだ腕を回して手を振り払った。
「ブスの底辺が調子に乗るな!」
そう捨てセリフを吐いて氷室さんは走って逃げていく。それを私は追うことができなかった。
美人で人望のある氷室さんに『キモい』『ブス』なんて言われたら心がズタボロだ。



