「はぁ……」
氷室さんは面倒くさそうに溜め息をついてお札を私の腕に強く押しつけた。
「日野さんって夏城くんとどういう関係?」
「え?」
「昨日二人が一緒にいるの見たの。公園の近くで」
「あ……」
見られていたのだ。よりによって一番苦手な人に。
「もしかして夏城くんのこと好きなの? まさか付き合ってるとか?」
「…………」
「そんなわけないよね。あなたと夏城くんって似合わなすぎ」
嫌みったらしく笑う氷室さんが怖くなった。
「キーホルダー返して……」
「これは夏城くんとお揃いだから返したくないの」
「どうしてそれを知ってるの?」
「夏城くんもこれをいつも持ってる」
「え、そんなはずないよ……だって夏城くんはオタクじゃないでしょ……」
蒼くんはお揃いでキーホルダーを買っても付けてはくれていない。
「でも持ってるよ。家の鍵をそれに付けてるの見たし」
目を見開いた。蒼くんはカバンじゃなくて鍵に付けてるの?
「まさか日野さんとなんて……最悪」
『最悪』という言葉に体が小さく震えた。私と蒼くんが付き合うことは最悪なのだろうか。もしも多くの人が知ったら同じように最悪と思われるかもしれない。私と付き合うことで蒼くんのイメージが下がるとしたら、絶対に知られちゃいけない。
「他の人には言わないで……」
「は? マジで付き合ってんの?」
私は躊躇いながらも頷いた。
「ウケる。本気で夏城くんと付き合ってるつもりなんだ? あの夏城くんが日野さんと?」
どこまでも私をバカにする態度の氷室さんを今度は私が睨みつける。そんな私を見て氷室さんは増々機嫌が悪くなる。
「あんたと蒼くんが付き合えるわけないでしょ。だって夏城くんはそんなこと誰にも言ってないんだもん」



