機嫌が悪いのか低い声に鳥肌が立った。何か氷室さんを怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。
「あの……私の好きなマンガの……キャラクター……」
「これってどこにでも売ってるの?」
「えっと……これは公式ショップでしか買えないもので……」
「ネットで買える?」
「そのうち公式サイトでも販売する可能性はあるけど……」
「じゃあいっか。これ私にちょうだい」
「え?」
「お金払うから」
意味が分からなくて混乱した。氷室さんは今まで私がマンガやアニメの話をしてるとバカにしてクスクス笑ってきたのに、このキーホルダーを欲しがるのはどうしてだろう。
「あの、これはあげられないの……」
「いつでも買えるものなんでしょ?」
「そうだけど……大事なものだから……」
蒼くんと一緒に買いに行ったお揃いのものだ。簡単にあげられるものじゃない。
「いいじゃん。千円でも二千円でも払うから!」
氷室さんは私のカバンから無理矢理キーホルダーを外そうとした。
「やめて!」
突然のことに抵抗するのが遅れてキーホルダーはカバンから外され氷室さんに取られてしまった。
「返して!」
「お金払うって言ってるじゃん。二千円あれば十分でしょ?」
氷室さんは自分のカバンの中にキーホルダーを素早く入れて、お財布を取り出した。二枚の千円札を取り出すと私の前に差し出した。あまりにも強引な態度に腹が立ってきた。
「どうしてこんなことするの?」
「二千円じゃ足りない?」
「返して!」
怒鳴っても氷室さんは私を睨みつけるだけでキーホルダーを返そうとしない。
「そんなに大事? 日野さんってマジでオタクだね」
バカにしたような言い方に悔しくて涙が出そうだ。



