可愛いなんて初めて言われた。だからもう涙を抑えるのは限界だ。

「っ……」

「泣くなって」

それでも私の頬にどんどん涙が伝うから蒼くんが困っている。

「マジで……泣き止んでくれないと心配になるから」

必死で涙を袖で拭う私を蒼くんは突然抱き締めた。
驚いて顔を上げると蒼くんの顔が目の前にある。離れようとする前に顔が近づいて、唇が重なった。初めてのキスだと自覚する前に唇が離れていく。

「涙止まった?」

目の前の蒼くんは恥ずかしそうな顔をしながら私の目元を見つめる。訳が分からない状況に涙なんて止まってしまう。

「止まった……」

「ならよかった」

そう言って私の体を離すと再び手を取って歩き始める。私の家の前に着くまでお互い何も言葉を発せなかった。

「送ってくれてありがとう……」

「じゃあまたな」

蒼くんはまだ照れたような顔をして目を合わせないから私は手を振った。すると蒼くんは振り返してはくれなくても手を上げてすぐに下ろし、背を向けて駅まで歩いて行った。
私は玄関の前で思わず飛び跳ねてしまい、両手で顔を覆った。

蒼くんとキスしちゃった……。

嬉しいこと尽くしだ。
一刻も早く卒業したい。そうしたら堂々とデートして、さっきみたいなキスをもっとしてみたい。




◇◇◇◇◇



「このキーホルダー自分で買ったの?」

廊下ですれ違った氷室さんに突然話しかけられて戸惑った。
彼女は真っ直ぐ睨みつけるように立っている。私に話しかけているって確信したくて辺りを見回しても、放課後の人がいない廊下では間違いなく私に話しかけているのだと分かった。

「ねえ、答えてよ。このキーホルダー何?」

氷室さんは私のカバンに付いたマンガのキャラクターのキーホルダーを見つめる。