「もう薫に嘘はつかないし怒鳴らないから、俺と付き合ってほしい」
「できない……」
また笑いものにされる勇気が私にはない。
「私はずっとあの時の惨めな思いを消せない……」
必死な顔と必死な声で私に訴える蒼くんを信じることができるほど心が広くはなかった。
「俺の気持ちをぶつけることが惨めになるなんて言わないで……」
声を震わせながらの言葉に私は小さく怒りが湧く。
「今も夏城くんの言葉が私に刺さったままなの。ずっと苦しい」
「俺は薫に告白したことを悪いと思ってない」
「悪いと思ってない……」
思わず蒼くんの言葉を復唱した。
私がどれほど傷ついたか今も蒼くんは理解しようとしてくれない。
「罰ゲームで告白したって言えなかったのは、薫のことが本当に好きになったから。だからまたそばに居たい」
「あの頃の私たちは付き合ってるなんて言えない関係だったよね。夏城くんが私のことを鬱陶しいって思ってたのを感じてたよ」
私の言葉が当たっているのか蒼くんの目が泳いだ。
「頼むから……チャンスをちょうだい……」
目を伏せる蒼くんに私は何も言葉を返さない。
何もかも今更だ。6年前、いや、それ以前にお互いの気持ちを確認し合う時間はたくさんあった。正直に打ち明ける言葉が足りなかったのは蒼くんが私を蔑ろにしたからだ。
「薫綺麗になったね」
突然の褒め言葉に首を傾げた。
「何急に……」
「大人になった薫は想像以上に綺麗になってた」
過去の蒼くんから綺麗なんて言われなかったから、まるで私の機嫌を取っているようなセリフに嬉しいような悲しいような複雑な感情を持て余す。