カフェに入りケーキセットを頼むとテーブルに運ばれてくるまでの間に蒼くんはマンガを読み終わった。

「もういいの?」

分厚い雑誌を返されて戸惑う。

「薫の好きなマンガしか読んでないからいいの」

「え? 他のは?」

「それだけ読めればいい」

「そっか……」

私の好きなマンガを毎週読んでくれるのは嬉しい。今週号の何が良かったかって熱弁しても蒼くんはもう引いたりしないから。

「ごめんね。重いのにこれだけのために持ってきてもらって」

「読んでくれるだけで嬉しいからいいの。卒業したら頻繁にマンガ貸せなくなるね」

私は調理師専門学校に、蒼くんは大学へ行く。卒業したら予定を合わせるのは大変そうだ。だから私は自然消滅じゃないかと不安だった。

「さすがに毎週読めなくても単行本借りるからいいや。そうしたらずっと軽いでしょ?」

「うん……」

卒業しても変わらず会えるんだって思ったら泣きそうだ。少なくとも蒼くんは私と会ってくれる気はあるのだ。

「今日本当はマンガのために会いたかったんじゃないんだ」

「そうなの?」

蒼くんは恥ずかしそうに視線を逸らした。

「マンガを口実に会いたかった……」

「え?」

「最近ちゃんと会えてないから……」

短い言葉でも蒼くんの気持ちが伝わって私まで恥ずかしくなる。
蒼くんも私に会えないのを寂しいと思ってるって、そう解釈していいってことだよね?

「嬉しい……」

そう呟くとお互いに照れて会話がなくなってしまった。





カフェを出ると日が落ちて空は暗くなっている。

「薫の家まで送ってくよ」

「ありがとう」

「でも少し歩いてもいい?」

「あ、うん……」

「もう少し一緒に居たいし……」