「日野は付き合ってないって言ってたけど、君は未練ある系? 俺から見ると只の日野のストーカーなんだけど」

「ストーカーじゃないです……」

俺はそんな風に見えるのかと落ち込んだ。こいつから言われると何倍もショックだ。

薫はなぜこんなやつが好きなのだろう。もしかして俺とやり直してもいいって言ってくれたのは、こいつの代わりにしているのだろうか。

「彼氏くんはいつから待ってるの?」

『彼氏くん』という言葉を強調して言った冬木は腕時計を見た。

「そんな長くは待ってないです。今からご飯行く約束なんで。だからストーカーじゃないですよ」

「電話してみた?」

「…………」

薫からの反応がないということを言いたくなくて黙り込んだ。冬木はスマートフォンを出して何かを確認した。

「日野に残業させてんの俺なんだ。ごめんね」

「え?」

「まだ電話に出れないほど切羽詰まってるのかも。今呼んでくるからもうちょっと待ってて」

そう言うと冬木は会社の中に入って行った。

残業させてるってなんだよ……パワハラかよ。

あいつが薫の予定を左右して意思に絡んでくることにムカついた。

しばらくすると本当に薫が正面玄関から出てきた。

「ごめんね!」

慌てて駆け寄ってくる薫は髪が乱れて息を切らしている。
俺のために走って来てくれたのだと思ったら嬉しくなる。慌てる顔も可愛いなんて思ってしまう。

「連絡もできなくてごめんね!」

「いいよ。事故とかじゃなくてよかった」

「ある意味事故で……ちょっと会社でトラブルが……」

「そっか。トラブルはもう大丈夫なの?」

「うん。冬木さんが対応してくれたから……」

薫の口からあいつの名前が出たことが不快だ。あいつは関係ない、もう俺の彼女なのに。
当の薫が何も意識していないところがやっかいだ。この先ずっと俺はあいつの存在に怯えることになるのか。

もっと薫に気持ちをぶつけないと。
そうしてこれまで以上に好きになってほしい。俺のことだけしか考えられないくらいに。