だからどうか、もう一度チャンスをくれないか。
「分かった……やり直す……」
小さく呟いた薫は複雑な顔をしている。それでも俺は歓声を上げたいほど嬉しさで鳥肌が立った。
「今まで離れてた時間の分を埋めたいと思ってる。絶対薫を傷つけない」
誠心誠意尽くして大事にする。もう泣かせたりしない。
「あのさ、また蒼って呼んでよ。薫の特別になりたいから」
そう言うと薫は戸惑いながら「わかった……蒼くん……」と呼んでくれた。その懐かしい呼び方に安心する。
連絡先をきちんと伝えて、薫が家の中に入るまで見届けた。
恋人として過ごしてきたはずの時間を早く取り戻したい。薫があの男に今以上に惹かれていく前に。
◇◇◇◇◇
毎日送るLINEのメッセージに薫の返信はいつも素っ気ない。高校の頃とは大違いの文面に悲しむどころか返信をくれたことに喜んでしまう。
信頼を回復するのに時間がかかるのは覚悟の上だ。薫と繋がっていると思うだけで今の俺には十分だ。
ご飯に行く約束をしていたけれど待ち合わせの時間になっても薫は来なかった。連絡をしても繋がらないし、LINEは既読にならない。何かあったのかと不安になって会社の前に来た。
会社に来ることに良い顔をしないとは分かっている。でも心配でどうしても足が向いてしまった。
いつかと同じようにガードレールに腰かけて待っていると「あれ? 日野の同級生じゃん」と声をかけられた。それは薫と一緒にいた冬木とかいう先輩社員だった。
「また待ってるの? 本当に日野の同級生?」
まるで不審者を見るような顔をされたから「彼氏です」と強気に答えた。
「本当の本当に彼氏?」
「薫に聞いてください。認めるはずです」
願うような言い方に冬木は面白そうに笑う。俺はこいつのこの顔が嫌いだと思った。



