紗枝は当たり前だという顔をする。全てを知っているとでも言いたげな表情で。

香菜は絶対に薫を式に招待する。
薫ともう一度会えると思ったら気持ちがどんどん膨れ上がった。付き合っている女と全部リセットしてまた薫と向き合いたいと思ってしまった。だから紗枝に別れたいと言った。けれど紗枝は今でも納得していない。

高校の同級生だった紗枝と付き合ったのは恋愛感情があったからじゃない。過去の楽しかった時間を思い出して共有できる『同級生』だったから。紗枝を薫と重ねることで少しでも薫を感じることができると思った。

自分でも最低だと思う。俺を好きでいてくれる紗枝を利用して寂しさを紛らわせてきた。

「日野のせいでしょ」

「何言って……」

「日野薫! 蒼はずっと私じゃなくて日野のことしか見てないんでしょ! 私分かってたんだから!」

紗枝は立ち上がると真っ直ぐ俺を睨みつける。

「日野が式に来るからでしょ! 蒼は日野とやり直したいから私と別れたくなったんだって知ってる!」

紗枝の頬にはいつの間にか涙が伝っている。

「私は! 引き出しのキーホルダーを何度も捨てようとした!」

紗枝が指さした先のテレビ台の引き出しには薫とお揃いで買ったキャラクターのキーホルダーが入っている。ずっと捨てられずに大事に保管していた。

「あんなものまだ持ってて私が傷つかないとでも思った!? 蒼は最低最悪の男だよ!」

紗枝は涙も唾も飛ばして俺に訴える。

「蒼が日野と簡単によりを戻せると思わないでね。鈴木の結婚式で日野も幸せになるとかあり得ないから! 私がそうさせない!」

「おい、結婚式で何かする気じゃないだろうな?」

まさか翔と香菜の門出を邪魔する気なのかと不安がよぎる。