「なんかさー、隣のクラスのやつが日野に告ったんだって」

「は!? 何だそれ!」

思わず大きな声を出すと「ちょっ、うるせーよ……そこまで驚く話か?」と横にいるそいつは耳を押さえた。

「悪い……」

「まあ驚くよな。日野に告るやついるのかよって」

肝試しの罰ゲームで俺が薫に告白したことを知ってるお前が言うなよと思ったけれど、俺は薫が他の男に告白されたなんて知らなかった。

「でも最近あいつ雰囲気変わった気がしない?」

別のやつも口を挟んだ。

「オタク女なのは変わらないけど、化粧とかし始めたし。氷室は調子に乗ってるなんて言ってたけど」

「女って化粧したら変わるんだな。けっこー可愛いかも」

「告ったやつ顔しか見てませんって言ってるようなもんだな。良いとこそこしかねーじゃん」

顔だけじゃねーよと言いかけて口を噤んだ。彼女を悪く言われていい気分じゃない。でも俺は付き合っていることを誰にも言っていない。表面上は薫と何の関係もないのだ。

可愛くなったのは俺のためだから。お前らに見せるためじゃねーんだよ、と言えたらどんなに良かっただろう。

「それでさ、日野は告白の返事どうしたの?」

質問の答えを聞くのは怖いけど、俺は『興味ないけど一応聞いとく』という風に素っ気ない声音で聞いた。

「日野が振ったらしいよ。なんか彼氏いるんだって」

ほっとした。薫がちゃんと断ってくれたことに。

「嘘だろそれ。あいつに彼氏がいるとか絶対見栄張ってるって」

「だよなー。俺ならあいつと付き合えねーもん」

笑いそうになるのを堪えた。
こいつら見る目ないんだなって。
まあ俺も前までは薫と付き合うなんてありえないって思ってた。

薫のことを好きなのは俺だけでいいんだ。あいつの魅力を知っているのは俺だけで十分なのだから。