そう。俺は日野が可愛いと思ってしまうことに困惑している。
公式ショップに行くと日野は目を輝かせて好きなマンガのコーナーに行く。マンガに出てくるキャラクターのキーホルダーをじっと見つめるから「欲しいの?」と聞くと「これならカバンに付けてても大丈夫かなって」とキーホルダーを目の高さに持ち上げた。
このキャラクターはマンガ内に登場するマスコット的な存在で、丸みを帯びて可愛らしさがある。
「カバンに推しキャラ付けてると笑われるから……この子なら可愛いからいいなって……」
沈んだ声にかける言葉が見つからない。
日野のように目立たないクラスメイトが陰で笑われていることを知っている。バカにして笑うやつの中には俺の友人もいる。
好きなものを好きだと主張して笑われる。その気持ちを考えたことがなかった。今まで自分の周りの人間のこと以外を考えたことがなかった。日野の存在を認識していなかったように。
俺は日野の手に持つキーホルダーと同じキャラクターを棚から取った。
「日野も買うなら俺も買おうかな」
「え? 夏城くんも?」
「これなら俺が持っててもおかしくないでしょ」
「うん……」
日野は顔を伏せた。だから俺が言ったことの反応を見れないのが残念だ。
もっと色々な顔を見たい。嬉しい顔も照れた顔も。
マジかよ……俺、日野のこと好きなんじゃん……。
公式ショップを出てカフェに入った。
日野は買ったばかりのキーホルダーをずっと手の上に置いて眺めている。
「明日からカバンに付けるの?」
「うん……」
日野が付けるのならお揃いで買った俺も付けるべきなのだろうか。でも同じものを付けていたら付き合っていると気づかれてしまうかもしれない。



