「お前ってマジで……」

翔は言いかけた言葉を飲み込むと横で溜め息をついた。俺が最低なのは言われなくても分かっている。けれど日野の一生懸命な顔とか照れた笑顔を見てしまったら別れようなんて言えないんだ。

「香菜が俺らと日野さんとで映画に行こうって」

「ああ、俺も誘われた」

二人きりでどこかに行くなんてできないから濁すことしかできなかったけれど。

「香菜は何か感づいてるぞ。映画ぐらい行けよ。ちゃんと日野さんと向き合え」

「分かったよ……」

日野と向き合う。
向き合うって、正直に言って謝ることだよな?
そう、日野に言わなきゃ。香菜と翔がそばに居るときなら俺はちゃんと言えるかもしれない。映画に行く日に日野に謝ろう。





待ち合わせ場所に日野が来ると俺は謝罪する決意が揺らいだ。
日野はいつもと雰囲気が違って、学校にいるときとは印象の違うメイクをしている。今日を特別に思ってくれていることが分かるから傷つけることなどとてもじゃないが言えなくなってしまった。

翔も香菜でさえも始終何か言いたそうな顔で俺を見ている。それを見ないふりして無難に過ごすと日野との今後のことを考えた。
またどこかに行きたいと言われてどう答えたらいいのか迷ってしまった。

不誠実な俺は日野に相応しくない。だから早く別れないといけないのに、いつからか日野の近くにいることが嫌ではなくなってしまった。
もう少し、もう少しだけ日野に本当のことを言うのを先延ばしにしたいと思ってしまった。
だって好きな映画を見た後の彼女の笑顔を曇らせることなんてできなのだから。










コンビニでおにぎりを買ったら日野が好きなマンガのクリアファイルをもらえた。俺が持っているよりも日野にあげるのがいいかもしれない。土方が一番好きだって言っていたけれど、手に入れたのは沖田だ。沖田でも喜ぶかは分からないけれど。