「迷惑じゃないよ。むしろ楽しみにしてる」
「え?」
思わず顔を上げると夏城くんは恥ずかしいのか目元が少し赤い。
「部活終わりに甘いもの食べるの好きだから……」
「よかった……不味いのかと不安になった」
「どれも全部美味しかったから、もらえて嬉しい」
初めて美味しいと言ってくれた。夏城くんは真っ直ぐ私を見てくれるから、本心だって思えて感激だ。
「今日のお菓子は何?」
「マドレーヌだよ」
私は夏城くんにラッピング袋を手渡した。
「ありがとう。終わったら食うよ」
今度は嬉しくて泣きそうだ。
「あのね、今度どっか行かない?」
思い切って誘ってみると夏城くんは驚いたような顔をした。
「私の好きなマンガあるでしょ? あれの映画に行かない?」
テレビアニメの他に劇場版が今週末から公開される。香菜と観に行くつもりだったけれど、夏城くんと行けたらもっと作品が楽しめると思った。
「あー……考えとくよ」
困っているような反応に気持ちがスッと冷めていく。『考えとく』なんて言葉はその気がない時に使う言葉だ。
「私もう行くね……部活頑張って……」
低い声を夏城くんに向けると早足で離れた。
もしかして私は夏城くんに好かれていないのかもしれない。
「夏城くんの告白ってやっぱり罰ゲームだったんじゃない?」
調理室に戻ると香菜は怒ったような声を出す。
「薫と付き合ってるって態度じゃないよね」
香菜にそう言われて増々不安になる。
「映画は私と行こうよ」
「そうだね……」
そうは言っても夏城くんと距離が縮まらない不安は拭えない。
「薫がそんなに寂しそうにするなら、翔も誘って四人で行く?」



