氷室さんもクラスで目立つ存在だ。そんな人が突然私に話しかけてくるなんて、もしかして私と夏城くんが付き合っていることに気付いたのだろうか。
「隣の席だからってだけ……」
「だよねー。夏城くんもそう言ってたし」
氷室さんは安心したように笑う。けれど私は落ち込んだ。付き合っていることを隠そうと言ったのは私だけど、夏城くんが誤魔化そうとしたことに傷ついた。
「変なこと聞いてごめんね」
氷室さんは私から離れて行った。揺れた髪からシャンプーのだろういい香りがした。
友達が多くて、綺麗な顔をしている氷室さんの後姿に増々落ち込む。夏城くんには氷室さんみたいな女の子の方が似合う、なんて思ってしまった。
私たち本当に付き合っているのだろうか。今のところマンガ以外の会話もほとんどないし、デートなんてしたことがない。
部活で作った焼き菓子を持って第二体育館に行くことに抵抗がなくなってきた。
こっそり夏城くんが踊る姿を見るのが楽しみになった。テレビでアイドルのダンスを見たことはあっても、男の子のキレのあるダンスを生で見るのはドキドキした。
ダンス部に男子は数人しかいないけれど、私から見ると夏城くんが一番カッコよく見える。
今日も入り口にいる私に気付いた夏城くんが近づいてきた。
「あのさ、もういいよお菓子は……」
困った顔でそう言われたから手の中のマドレーヌを軽く握ってしまった。
「美味しくない?」
「そうじゃないけど、毎回作ってもらうの悪いし……」
「部活動だから作るのは苦じゃないよ……でも夏城くんの迷惑になるならもうやめる……」
涙が出そうになって下を向いて唇を噛んで耐えた。



