「夏城くんも読んでる?」
「たまに。忘れがちだから話が分かんなくなるけど」
「よかったら読む? 私毎週買ってるの」
私は香菜の手からマンガを取って夏城くんに差し出す。夏城くんは一瞬驚いた顔をしたけれど「ありがと……」と言ってマンガを読み始めた。
ほんのちょっと話しただけで心臓がバクバク。話すきっかけができてよかった。
香菜は文句が言いたそうな顔をしたけれど、私の顔を見て「仕方ないな」と呟いた。
私の好きなマンガのページを読み進める夏城くんはオチのシーンでクスッと笑った。
「私そのマンガが一番好きなんだ」
「これ俺も読んでた。連載長いから最初の方覚えてないや」
「あの……よかったら貸そうか?」
「え?」
「単行本、一巻から持ってるから……」
余計な事かもしれないと思ったけれど、夏城くんは少し考えた後に「じゃあ借りようかな……」と言った。
「明日持ってくるね……」
嬉しくなって声が思わず震える。夏城くんともっと話せるきっかけができたのだ。
それからはマンガを毎日数冊ずつ貸すようになり、夏城くんと話すことが増えていった。
「ねえ日野さん、最近夏城くんとよく話してるね」
トイレから出ると廊下に同じクラスの氷室紗枝さんが立っていた。ハンカチを持ったまま固まる私に氷室さんはまるで責めるかのように一歩近づいた。
「仲良いよね。一緒にマンガ読んでるし」
「えっと……うん……」
どう言葉を返すべきか迷ってしまう。
「もしかして何かあった?」
「え?」
「修学旅行の時の肝試しで夏城くんとペアになったでしょ? その時から二人変な空気だよね」
「そんなことないけど……」
妙に勘の良い人だなと思う。



