一緒に来ていた友人に「帰るね」と声をかけて会場を出た。
駅まで歩きながら後悔と疲れでぼーっとしていた。

せっかく香菜の結婚式だったのに蒼くんを意識しすぎて集中できなかった。私だけがいつまでも過去を引きずっている。

(かおる)!」

後ろから誰かに呼ばれて振り返ると息を呑んだ。
私の方に走ってくるのは一番会いたくなかった蒼くん本人だった。
驚いて動くことができないでいるうちに蒼くんは私の目の前で止まった。

「久しぶり……」

「あ……うん……」

6年ぶりに会った蒼くんは緊張した様子で私をじっと見つめる。それが堪らなく居心地が悪くてすぐにでも逃げたくなる。
今更追いかけてきて何のつもりなのだ。まだ怒鳴り足りないのだろうか。

「薫……少し話せない?」

「っ……」

「だめ……かな?」

「…………」

蒼くんは不安そうな顔をしているけれど私は声が出せない。蒼くんと話すことが怖い。今この瞬間同級生が隠れて私のことを見て笑っているかもしれない。

目が潤んできた。泣きたくなんてないのに。

「薫?」

何か言わないと、また怒鳴られる。

「ごめんなさい!」

勢いよく頭を下げた。

「え?」

蒼くんの困惑した声が頭上から降ってくる。それでも蒼くんが何かを言う前に私は必死に言葉を繋げる。

「もう会わないから今日だけは許してください! 夏城くんが怒ってるのは分かってるんだけど香菜の結婚式はどうしても出席したくて、すぐに帰るからこれ以上はもう勘弁してください!」

一気に言い切った。ずっと足元を見ていると蒼くんは「何でだよ」と怒りのこもった声を出した。やっぱりまだ私のことを嫌っているのだ。