自分で言って照れてしまう。確かに香菜の言う通り夏城くんは話したことのなかった私をどうして好きになったのだろう。

焼けたばかりのクッキーをラッピング袋に入れて調理室を出た。夏城くんがいるはずの第二体育館に向かう。
ダンス部の夏城くんが放課後多数の女子に交じって練習していることは以前から知っていた。数えるほどしかいない男子部員の中の一人だ。

開いた扉の影からこっそり中を覗くと中央で数名の女子と男子が音楽に合わせて足を動かす。奥の壁に沿って立っている夏城くんを見つけた。彼は参加していないようだ。

今は休憩だろうか。どうにか気づいてもらえないかな。手を振る? でもそんなことしたら中にいる他の部員に変に思われるし……。

迷っていると夏城くんが入り口から顔を出している私に気がついたようで、踊る部員の邪魔にならないよう壁に沿って歩いてくる。

「あのさ……何やってんの?」

困惑した顔で出てきた夏城くんは第二体育館から離れるように私を外に追いやる。

「クッキー焼いたから持ってきたの。私料理部だから」

躊躇いながら夏城くんにクッキーを手渡した。

「ごめんね部活中に。連絡先知らなかったから……」

まだ夏城くんに連絡する方法がない。だから迷惑だとは思いつつも思い切って渡しに来た。

「ああ……ありがとう……」

夏城くんは困ったような顔をする。突然手作りのものを渡すなんて重いだろうかと不安になる。

「あの、LINE教えてもらってもいい?」

「えっと……うん」

私たちはお互いにスマートフォンを掲げた。私のLINEに新しく夏城くんが友だち登録された。
思わずニヤけてしまったけれど、夏城くんの顔はなぜか強張っている。
もしかして部活中に会いに来るなんて嫌だっただろうか。