電車がガタガタと揺れても私の言葉を聞き取ったのか蒼くんは「本気で?」と問いかける。

「あの人のこと好きなの?」

「夏城くんに関係ある?」

「あるよ。薫が他の人好きになられると困る」

勝手すぎる、と言う言葉を飲み込んだ。私が下りる駅のホームに電車が到着した。

改札を出ても蒼くんは帰ろうとはしないで送ってくれるようだ。でも私はずっと無言だった。
私の家を覚えてくれていたようで、家が近づくと「薫」と再び私を呼んだ。

「俺は、ちゃんと付き合ってたって思ってるよ。薫が何と言おうとも」

「…………」

「また会ってほしい」

必死な声に周りを見回した。角にも電信柱の影にも誰も見当たらない。

「何見てるの?」

私の不審な行動に蒼くんが戸惑っている。

「同級生が隠れて見てるんじゃないかと思って。さすがにこんなところにはいないね」

声に自然と嫌みがこもる。

「いるわけないだろ! 連れてこないよ!」

「夏城くんの周りにはいつも人がいたから。罰ゲームに付き合うお友達がいっぱいいるでしょ?」

蒼くんを傷つける言い方が止まらない。それほど私は引きずっている。

「もう蒼って呼んでくれないの?」

暗い道でも蒼くんが泣きそうなほど悲しんでいるのは分かった。

「ただの同級生だから……」

蒼くんのことは記憶の隅に追いやっていたのに。

「今彼氏がいないんだったら俺と付き合ってほしい」

何度目かのお願いにいい加減うんざりしてきた。

「夏城くんといると嫌なことを思い出すから無理」

この言葉に蒼くんは小さく肩を震わせた。

「私への罪悪感からそう思うなら、もういいから。いつまでも私のことを暇つぶしの対象にしないでください」