一刻も早く訂正しなければと日野に話しかけようとしても行動班が違うし今まで話したことすらないグループに近づくことなどできない。

日野も俺を意識しているのか目が合いはするものの、近づいてこようとはしなかった。それがいいのか悪いのか、結局修学旅行が終わっても日野に誤解を解くことはできなかった。



◇◇◇◇◇



翌週に行われた席替えで日野の隣になってしまった。気まずいと感じる俺に対して日野は照れたように「よろしく」と笑った。
今までそんな風に笑いかけられることがなかったから戸惑う。

運悪く日野とペアで日直になってしまい日誌を書くことになった。

「蒼、先に下行ってるよ」

翔がそう声をかけて教室を出て行った。一緒に出て行く同級生は俺と日野を見て意味ありげな視線を向けて行った。

教室に二人きりになると俺はさっそく謝ろうと思った。

「あのさ……」

日野の顔を見ることができない。もし罰ゲームだったと言ったらこいつはどうするだろう。泣くだろうか、俺を怒鳴るだろうか。

「肝試しの後のことなんだけど……」

最後まで言えない俺の気持ちをまた勘違いしたのか日野は「みんなには内緒ってこと?」と真っ直ぐ見つめてくる。

「あ……そう……」

煮え切らない自分に呆れると同時にほっとする。日野が俺たちのことを誰にも言わなければ問題ないのではと思った。

「秘密にして。俺そういうの照れるから……」

目を合わせることができない。後ろめたくて仕方がない。

「うん。分かった。私もその方がいいかな……恥ずかしいし」

日野はまた照れたように笑う。その顔に更に居心地が悪くなる。

「これからよろしくお願いします」

この笑顔を傷つける言葉が言えない。自分が悪者になりたくない。
しばらくしたら別れればいい。適当な理由をつけて。
だから俺は日野と目を合わせず「うん……」と言った。