「夏城くんが私と?」

「そう……」

何度も同じこと言わせんなよ。何かの悪ふざけだって理解して早く無理だって言ってくれ。

「嬉しい……」

日野は両手を頬に当てて微笑んだ。

「え……」

思っていた反応と違って目を見開いた。

「夏城くんと……付き合います」

「あの、えっと……」

どうしよう……こいつ本気にしてるし、まさかOKするなんて……。

罰ゲームで告白したって言わなければいけないのに、目の前の女子は照れて顔を手で覆って「めっちゃはずい」と嬉しそうに笑う。

日野ってこんな顔するんだ……。

「あのさ……実は……」

先の言葉が続かない。
日野の顔を見たら本当のことを言える雰囲気じゃない。嘘の告白なんて言ったらこいつを傷つける。

「薫?」

壁の影から顔を出したのは香菜だった。

「何やってんの? もう中に入るってさ」

香菜は俺と日野に怪訝な顔を向ける。

「どうしたの?」

「何でもねーよ」

俺はぶっきらぼうに言うと日野は「私は行くね」と微笑んだ。

「あの……」

「じゃあまた……」

罰ゲームだと言えないうちに日野は俺を置いてホテルの正面に行ってしまった。

「マジかよー……」

自分の不甲斐なさにその場にしゃがみこんで頭を抱えた。

まさかあいつ本当に付き合うつもりか? いや、俺がそう言っちゃったんじゃねーか……。

修学旅行中に告白したら何かのゲームと思うだろう以前に、相手が雰囲気に呑まれて受け入れることを想定していなかった。

ホテルの中に戻るとロビーで俺が戻るのを待っていた同級生が何かを期待するような顔をしている。

「なあ、日野どうだった? 振られた? 付き合うの?」

「付き合う訳ないでしょ」

氷室が怒ったような声でからかう同級生を睨みつける。

「振られたよ」

俺はそっけなく答えた。まさかOKしてもらえたなんて言えなかった。
「だよなー」と笑って部屋に戻る同級生の後ろからノロノロとついて行く。
焦りと不安で顔が強張っている俺を翔だけが心配そうに見てきた。