残すはいよいよ竜王様。
 竜王様はこの世界で私を拾ってくれた恩人だから、今日は特別仕様! みんなにはガトーショコラだったけど、竜王様のはフォンダンショコラ。中からトロッとチョコレートソースが流れ出してくるのがいいんですよねぇ。テンション上がる一品です。
「やっぱり竜王様の分は、私たちのとは違うわねぇ」
 ティーセットとおやつを乗せたワゴンを押すマゼンタがニヤニヤしています。
「だ、だってほら、竜王様は特別じゃないの!」
「そうね、〝特別〟ね。『本命』と『友』だとこんなに差があるのか……」
 そう言って大袈裟に頭を振るマゼンタ。
「ち、違うってば!」
 ああもう! こんなにいじられるなら私だけでワゴン押してくればよかった——って、途中で破壊するから一人で何かを運ぶの禁止だった。

「竜王様、おやつをお持ちしました」
「入れ」
 竜王様の許可が出たので執務室に入ります。竜王様は部屋の奥、立派な執務机で、何やら書類を読んでいました。真剣な眼差しでお仕事している姿は凛々しくて、見惚れてしまいますね。
 テキパキとお茶の準備をするのはもちろんマゼンタ。私はそれを見守るだけの簡単なお仕事です。お茶のいい香りが部屋に漂ったら、準備はOK。
「竜王様、準備が整いました」
「今行く」
 書類を置いた竜王様は、ひとつ伸びをしてから、おやつのセッティングされたテーブルにつきました。
「今日のおやつはフォンダンショコラです。温かいうちにお召し上がりください」
「冷めてからではダメなのか?」
「そうなんです。温かいうち、というのがミソです」
「そうか」
 優雅な仕草でケーキを二つに割った竜王様は、中から流れ出してきたチョコレートソースを見て、眉をクイと上げました。
「だから温かいうち、か」
「そうです。美味しくできたと思いますよ」
「ライラの作るものはいつでも美味いぞ」
「……ありがとうございます」
 しれっと褒めるから、照れるじゃないですか。これ、絶対に後でマゼンタにからかわれるわ。
 さっきは美味しくできてるって言ったけど、自信を持ってお出しできるけど、やっぱりお口に合うかどうか……。竜王様がひと口目のケーキを味わってる間、ドキドキしました。ドキドキしすぎで、食べてるところガン見しちゃていたようです。
「そんなに見るな。食べにくい」
 竜王様が苦笑しています。
「はっ! つい。すみません」
「心配するな、ちゃんと美味いぞ」
「ほんとですか?」
「ああ」
 そう言って目を細める竜王様。よかった。お口に合ったようです。