御手洗くんと恋のおはなし

 ふわりとふくらんだスカートが、彼女を一輪の花のように見せた。
 突然の和葉の登場に、満は戸惑いを隠しきれない。
 近くで、パシャリとまたシャッターが切られる音がした。

「可愛いじゃん、和葉ちゃん!」

 洋子が笑ってカメラを向けていた。

「内田さんが仕上げてくれたおかげですよ」

 無邪気に答えた和葉の後ろからもう一人、枯れ葉を踏んで近づく人物が現れた。
 先ほど和葉とカフェにいた、あのアッシュグレー髪の男だった。

「ああ、やっぱりこの色の服だとここにピッタリだね」

 満足そうに言いながら近づく彼。
 なんであいつがここに、と驚く満の横で、洋子が彼へ親しげに手を上げた。

「ご協力感謝だ、ウッチー」
「……母さんの知り合い?」

 なんとなく嫌な予感がして、満は恐る恐る我が母へと視線を向ける。すると案の定、にっこりと笑う洋子と目が合ってしまったのだった。

「ウッチーは私の知り合いの美容師兼メイクアップアーティストだ。日本に帰ると、いつも世話になっててな」
「初めまして、内田芳樹です」

 内田が親しげに手を差し伸べてきたので、満も応じて握手をした。

「満くんに会えるの、楽しみにしてたんだ。洋子さんの写真でいつも見せてもらってたから」

 その言葉に、満は「はぁ」と生返事しかできないでいる。こめかみに指を添える。

「えーと……どういうこと?」

 満の疑問に答えたのは、当の本人の和葉だった。

「洋子さんにね、写真モデルしてほしいって頼まれたんだ」
「写真モデル?」
「うん、ほら、帰国されたあの日に。私嬉しくてすぐにオッケーしちゃって。だからその、水族館断っちゃって……ごめんね」

 言葉尻を濁して満を見上げた和葉の目元が、いつにも増して魅惑的に見えたのはメイクのせいに違いなかった。
 どこか少し、ミーハーな和葉。彼女ならたしかに、モデルにスカウトされたらすぐに乗ってしまうだろう。