御手洗くんと恋のおはなし

「やだね。息子の成長を刻むために、今日はここに来たんだ」

 まるで悪戯っ子がそのまま大きくなったような母親には敵わず、満はふらふらと散歩を続けた。
 洋子に写真を撮られることは、満は慣れている。小さい頃から帰国のたびに撮られていたからだ。
 撮っているのがプロだからか母親だからかはわからないが、カメラの前で緊張もしない満に、洋子は言った。

「満はあまり、表情が出ないな」
「そう? 笑顔は多い方だと言われるけど」

 仏のみーちゃん、とからかう和葉の笑顔を思い出す。

「馬鹿者。感情は笑顔だけで表せるものじゃないだろう。喜怒哀楽、そこからいくつも派生されるものなんだ」
「はぁ、そうですか」
「そうなんだよ」

 何度もシャッターを切る洋子。
 満は手持ち無沙汰から、足で枯れ葉をえいっと蹴った。軽やかに茶色の葉っぱが舞い散った。

「……でも、このファインダー越しならお前の素顔も見られるかもね」
「え?」

 洋子の言葉が気になって、顔を上げた。
 すると洋子のさらに向こう側に、知った人物を見つけて満は驚いた。その人物はさっき、ケンカをしたばかりの──。

「……カズ?」
「えっへへー。どう? みーちゃん!」

 華やかにカールした見慣れない髪形の和葉がいた。笑って、先ほどのイエローワンピースの裾を少し上げくるりと回る。