御手洗くんと恋のおはなし

「カズ、変なのに引っかかってないよね?」
「へ?」
「……出会い系とか」

 すると和葉は、ショックを受けたみたいに声を失った。

「し、してない、そんなの……!」
「本当に?」
「みーちゃん……私がそんなことするような子だと、思ってたの?」

 瞬間、満の心がざわりとした。
 満がそんなこと、和葉に対して思うはずがない。
 一番近くにいる和葉ならわかりきっているはずなのに、真に受けるのか。自分は怪しい男といたくせに。
 そんなふうに思った満は険しい目つきになり、決して和葉には見せなかった表情をその時初めて──見せた。

「カズ、騙しやすそうだし」
「……!」

 崩された和葉の表情。
 と同時に、満のおでこにヒリヒリとした痛みが与えられた。
 ペチン、と少しだけ痛いデコピンを、和葉にされたのだ。

「バカみーちゃん……ほんっとバカ!」

 和葉はそのまま背を向けて、また店内に逃げるように戻ってしまった。
 呆然とする満は、近くの窓から席に戻った和葉を見たが、彼女はこちらに「あっかんべー」と舌を出してくる。

(か、カズのやつ!)

 幼稚な表現に、満もつい幼稚に怒りを感じて「フンッ」とそっぽを向いて歩き出した。

 何だよバカカズ、心配してやったのに、もう知るもんか──そう考えて歩き出した満に、冬の厳しい木枯らしが吹き付ける。
 デコピンされたおでこが風で冷やされて、少しだけ満にとって痛かった。