御手洗くんと恋のおはなし

 しかし、と満の脳裏に、坂本に抱きしめられていたときの涼子の顔が思い浮かぶ。
 涼子のあの表情は、彼に対する嫌悪というよりは、どこか悲しげで、切なそうな……。

「坂本先輩はどうしたいんです?」

 アイスコーヒーのグラスを傾け、満は聞いた。

「そりゃ、もう一度きちんと話をしたいよ。このままじゃあ諦めきれない。本当の避けている理由が、きっと他にあるはずなんだ」

 それはいい決意だ、と満はうなずく。
 恋敵はぜひそのまま違う女性へと目を向けておいてくれ……と言いたいところだが、すんなりそう言えないわけもある。

「それは、神楽先生が可哀想ですね」
「!」
「好きでもない相手につきまとわれる……それはもはやストーカー被害だ。僕には見過ごせないなぁ」
「……何が言いたい」

 思わぬ同性からの批判に、坂本の表情が堅くなる。もしかしたら彼も、少しは罪悪感はあったのかもしれない。
 しかし抑えきれぬ恋情をぶつけるしか、この少年は出来ないでいる。
 満は目を細めて、人差し指をピッと上げた。

「先輩、ひとつ賭けをしませんか」
「賭け?」
「今度の球技大会のバスケ試合。うまく進めば早い段階で僕と先輩のクラス、当たりますよね」

 一週間後に控えた球技大会は、トーナメント戦だ。二人のクラスは同じブロックに組まれていた。

「そこで先輩のクラスが負けたら、先輩は神楽先生を諦めて下さい」
「は?」
「バスケ部キャプテン率いるチームなんですから、悪い勝負ではないでしょう?」
「なんで、君とそんな勝負しなくちゃいけないんだ」
「僕は女性の味方ですから。ストーカー被害は見逃せない」
「だから、誰がストーカーだよっ」

 少し声を荒げた坂本だが、周りの目を気にして声をひそめる。

「わかった。それならこっちにも条件はある」
「なんですか」
「俺が勝ったら、涼子さんに探りを入れてくれないか。その……俺を避けている理由」

 言い出された条件は、おそらくきっと……坂本が本当に望んでいるものだった。
 その言葉を受け止めて、満は「いいですよ」と、目を細めて微笑んだのだった。