御手洗くんと恋のおはなし

 坂本が驚いた表情を見せた。そこで和葉が満のアイスコーヒーを運んできたので、すぐに言葉は返されなかった。
 和葉が他の客のオーダーを取りに行ったのを見届けて、坂本は反論した。

「つ、つき合ってないって、言っただろ」
「そうなんですか? 僕にはそうは見えませんでしたが」
「何でそう思うんだよ」
「ま、ネタばらしをするならば、香りですね」
「香り?」
「今日、先輩と神楽先生から同じ石鹸の香りがしたんです。あれ、香水か何かですよね。しかも貴方からはあのハグシーンより前の、体育の時間に香っていた」

 満は頬杖をつき、首をかしげる。

「あの神楽先生が、二度も危険人物近づけるかな?」

 坂本は体を固まらせた。額に手を添え、苦笑して見せる。

「本当につき合えてたら良かったのにな。……やっぱりハズレだよ。結局、俺の一方的な片想いだったんだ」
「……なんだか、意味ありげな言い方ですね」
「だろ。君に興味を持ってほしくてね」

 やはり食えないやつだと満は思った。
 けれど先ほどよりも、嫌な気はしない。満は「話してみてくださいよ」と言葉を促した。
 それを待っていたかのように、坂本は口を開く。

「俺、先生と本気でつき合いたいって思ってて、何回かアタックしてたんだよ。もちろん、うまくかわされてばかりだったけど……先生も、どこか少しずつ、俺に好意を持ってくれるようになっていたんだ」
「好きって、言われたんですか?」
「いや。でも、態度でなんとなくわかるだろ?」

 これがモテ男の能力というやつだろうか。
 やっぱりいけ好かない……と、満の坂本への印象はシーソーのようにせわしない。

「でも、最近、急によそよそしくなってさ。前までは笑いながらかわしてたのに、へんに強固な態度になっちゃって」

 ふいに、落ちこむ坂本。
 そこには女子憧れのバスケ部キャプテンの顔はなく、ただ失恋に悲しむ年相応の少年の顔があった。