御手洗くんと恋のおはなし

 坂本と向き合った満は、こちらをチラチラ見てくる和葉にアイスコーヒーを注文した。和葉はカウンターに向かい、店主の光一に注文を伝える。
 それを見届けて坂本は、オルゴールミュージックの隙間から満に話しかけた。

「素敵なお店だね。レトロな感じが、逆に新鮮だ」
「ありがとうございます。父が喜びます」

 ニッコリと仏顔で返すが、満はスッと坂本を見据えた。

「ところで、今日ここに来た目的は何ですか? もしかして信用出来なくて、口止めにでも?」

 相手が恋敵となるためか、満の物言いはいつもより刺がある。
 しかし坂本は眉をハの字にさせただけで、落ちついて対処した。

「いや……御手洗くん、あることで有名だろ?」
「有名?」
「そう。恋愛相談をよく受けてるって」

 たしかにそうであったが、まさか坂本からそれを言われるとは思わなかった満だ。
 もしかして、といぶかしむ。

「ひょっとして先輩も、恋愛相談したいんですか?」
「相談ってよりは、愚痴に近いのかな。君にはもう、俺の恋愛事情はバレたわけだし……」

 そこで坂本は癖のように、肩をすくめた。

「ずっと誰かに聞いてほしかったんだ」
「……」

 そこまで聞き届けて、満の感情も落ちついてくる。いくら恋敵とはいえ、こうも子犬のように(すが)られては「仏のみーちゃん」と言われている(和葉からだけ、だが)満としては無下にできない。
 それに満には、ある考えがあった。

「まぁ、たしかに……あんな美人教師とつき合ってたって、普通の男子高生なら言いふらしたくもなりますよね」