御手洗くんと恋のおはなし

 そのスピードは電光石火。

「わ、うわぁ」
「ちょっと和葉……」

 慌てて保健室前から去ろうとする和葉を、満は追いかけようとしたが。

「お前たち、待てよ!」

 保健室から出てきた坂本に、満も和葉も腕を掴まれて止められた。

「待ってくれ! 話を聞いてくれ!」

 すがりつくような視線に、二人とも足を思わず止める。

「坂本先輩……」

 呆然と和葉がつぶやくと同時に、坂本は(なが)ば強引に二人の腕を引っ張って「お願いだ、来てくれ」と促す。
 満と和葉は再び保健室に舞い戻った。
 扉を閉めるときに、坂本は鍵を内側からかけた。中では居心地悪そうに立ちすくむ涼子が立っている。
 気まずい静寂のなか、口火を切ったのは満だった。

「あの」

 言葉を失っている和葉の代わりに、満は言う。

「俺たち、言いふらしたりしません。二人がつき合ってることは……」
「つき合ってないわ!」

 そこで初めて、涼子がこちらを向いた。

「彼が勝手にしたことよ。私たち、つき合ってなんかない」
「涼子さん……」
「名前で呼ばないで」

 いつもの柔和な養護教員の顔はなく、涼子はキッと坂本を睨む。坂本は居心地悪そうに肩をすくめた。

「てことだ。俺が悪かったから、言いふらすなよ。先生は何も悪くないんだ」
「……わかりました」

 多少の違和感を覚えつつも、満は返事をした。「行こう」とまだ戸惑っている和葉を促す。
 保健室を出てしばらく歩くと、和葉はドッと疲れたように大きく息を吐いた。

「び、ビックリしたぁー。まさかあの二人が……」
「あれ、案外ショック受けてないね?」
「だってドラマみたいじゃなかった? 美男美女だし」

 憧れの人のハグ現場を見たくせに、和葉は思いのほかのん気だ。両手を赤らめた頬に添えて、そんなことを言う。

(やっぱり、まだまだ恋に恋してる、だね)

 安堵の息を吐いた満は歩きつつも、後ろを振り返る。
 違和感の正体となる残り香が、保健室から漂ってきている気がした。