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放課後、和葉が荷物を携え満の席へと近づいた。
「みーちゃん、私今日バイトだから一緒に帰ろ!」
「ゲッ」
ついに喫茶店サルビアでバイトを始めた和葉は、バイトの日は決まって満と帰ろうとする。満が和葉のバイトにいい顔しないのも、いつものことである。
「ゲッ、て何。失礼しちゃう!」
「はい、失礼しました」
フェミニスト御手洗としては、らしくない発言だった。
(和葉にあんまり、あの店で働いてほしくないんだよな)
最近ではお店の看板娘と化した和葉目当てに、今まで少なかった若い男性客が増えた気がした。
和装ウェイトレスの和葉は可愛いが、できれば他の男には見られたくない。
(まぁ、目につかないところにいられるよりはいいのかな)
そう思い直した満は、仕方なしに席を立って一緒に帰ることにした。
階段を下りて一階に着くと、和葉がふと靴箱と反対の方向を指さした。
「ちょっと保健室寄っていい?」
「いいけど、何で?」
「神楽先生にお菓子渡そうと思って。今日、お世話になったし!」
大げさに包帯を巻かれた人差し指を見せ、和葉は笑う。
和葉はけっこう義理堅い。満はつい微笑んでうなずいた。
「お菓子はどうしたの?」
「いつも持ち歩いてるの。お菓子ポーチ、みーちゃん持ってない?」
「持ってないよ」
だから最近ふっくらしてきたのかな、と和葉が聞いたら怒りそうなことを考えて満はついて行く。
やがて見えた保健室の扉を、和葉は率先して元気に開けた。
「失礼しま──す!?」
開けたと同時に見えた光景に、満と和葉は声を失った。
そこには抱き合っている──坂本と涼子がいたのだから。
気づいた涼子は坂本を突き飛ばし、この世の終わりとばかりに満たちを呆然と見やる。
満の前に立つ和葉は、混乱しながらピシャリと扉を閉めた。
「しししし、失礼しましたぁ!」
