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「はい、これ約束の」
「今月ピンチだったんだよ、サンキュ!」
満が友人の大谷圭介に渡したのは、映画のペアチケットだ。
親戚からもらっていたそれを餌に、今回の協力を要請した。彼女にべた惚れな大谷はいつもデート代確保に忙しい。
梨花と慎一を見送ったあと、二人は帰宅するため並んで歩いていた。制服に着替えた大谷がポツリとつぶやく。
「それにしても女も大変だな。痴漢なんて俺遭ったことねーよ」
「ごつい男を襲う物好きは、なかなかいないからね」
「つーか、美羽のこと心配になってきたなぁ。遭ってないといいなぁ」
彼女の名前を口にした大谷に、満は告げる。
「あのね、大なり小なり、女の子は何かしらの被害には遭っているんだよ」
「へ?」
「ただそれを黙殺してるだけだよ。あるいは、本人も気づいてないのかもしれない」
「気づいてないって、そんなバカな~」
ヘラヘラと笑う大谷に、満は目を細めて苦笑する。
思い出すのは、先日のエスカレーターでの盗撮野郎のことだ。
あの存在を和葉は知らないが、もしかしたらそんな被害は、満の知らないところでもあったのかもしれないと心が痛む。
隠されている性被害。その存在に少しでも、身近な異性が気づいてあげれば。
「……お、俺、美羽に会ってくる!」
黙って笑う満に冷や汗をかき、大谷は彼女の元へと向かった。
そう。そうやって身近な異性が味方になること、理解することこそが、女の子への被害を抑える近道なんだ。
満はそう思い小さく笑って、大きな同級生の背中を見送った。
