御手洗くんと恋のおはなし

 仏顔に、思わず慎一の警戒心も緩んだのだろう。満と視線を合わせ、戸惑う。

「痴漢に遭った女性が、傷つく原因はなんだと思う?」
「原因?」
「簡単に言えば痴漢からの身体的被害と心理的被害。でもね、心理的被害は他者からも与えられるんだ。痴漢なんて大したことない、被害者にも落ち度はある、冤罪なんじゃないのか、誘ったんじゃないのか、じつは喜んでいるんじゃないのか──」
「お、俺はそんなこと思ってない!」
「そうだね、さっきの君の行動を見て安心した。梨花ちゃんを本当に愛しているんだね」

 試されていたのだろうか、と慎一はまた少しだけ警戒した。
 愛している、なんて高校生男子にしては肌寒い言葉をサラリと言ってのける満に、慎一は若干の畏怖さえも感じる。

「彼女が痴漢に遭って腹立たしい気持ちはわかるよ。たしかに彼女にも、男をつけ込ませる何かはあるんだろう。でもそれを免罪符に痴漢をしていい、なんてことにはならないし」
「ええっと……つまり、何を言いたいわけ?」

 慎一は頭をガシガシと掻き、じれったい満の先を促した。
 読めない仏顔の少年はただ、ニコリと笑う。

「周りの反応次第で、痴漢被害者は強くも弱くもなれるってことさ」
「……!」

 そこで慎一はグッと息をつまらせ、となりに立つ梨花に目を向けた。