御手洗くんと恋のおはなし

(みーちゃんの好きな子って……もしかして)

 最近浮かんでくる自惚れのような考えに、和葉は風邪でもないのに顔を赤らめた。慌てて一人、かぶりを振る。
 しかしその動きが気になったのか、近くの満が「うーん」とつぶやいて目をうっすらと開けた。

「カ……ズ?」
「あ、ごめん!」

 起こしてしまったことに申し訳なく思って、和葉はベッドから離れようとした──が、出来なかったのは引っ張られたからだ。
 満の片手が和葉の首元にまわり、そのまま引き寄せられる。
 和葉は、倒れこむようにして満の胸元に顔をつけた。

「わぁっ!?」

 戸惑う和葉の髪の毛に、満の唇がふれる。
 満の声が、静かに響いた。

「……好きだよ」
「!?」

 和葉は身を固まらせた。
 突然落とされた四文字の言葉に、頭が一気に混乱する。
 これは一体、どういうこと。
 というか、この状況は一体、何なのだ。

「み……みみみ、みーちゃん!?」

 季節はずれのセミになったように和葉はわめき、顔を上げる。
 しかしそこには、また目を閉じて眠る満の顔があるだけで。

「あれ?」

 満はスースーと、寝息を立てて眠っていた。
 寝ぼけていたのだと気づいた和葉は一気に脱力し、満の腕から逃れた。

(び、ビックリしたあ~!)

 心臓に悪すぎる! と和葉は怒って満の顔をにらんだ。
 無邪気に寝てくれている満の口元を見て、先ほど落とされた言葉を思い出し恥ずかしくなる。

「みーちゃんの……バカ」

 こんなことをされては、期待も勘違いもしてしまうし、見逃すことなんてできやしないのだ。
 いつからだろう。和葉にとって、満の存在が特別なものになったのは。
 最初はしゃべりやすいクラスメイトだった。そのうち恋愛相談が出来る相手になり、秘密を共有する相手になり、いつも一緒にいるようになって──。

 だから、こうなってしまうことも、当たり前なのかもしれない。
 和葉は見られているわけでもないのに、わざと怒り顔を作ってみせた。
 顔を赤らめたまま、ゆっくりと腰を上げる。
 そして──。