御手洗くんと恋のおはなし



◇  ◇  ◇


 オレンジ染まる、夕暮れの街中。
 安藤慎一は、駅前のロータリーで彼女と待ち合わせをしていた。
 タクシー乗り場から少し離れた駅の外壁に、背を預けてスマホゲームで暇つぶしをしている。

 彼女の梨花とは、中学の卒業式で慎一から告白し付き合いをスタートさせた。
 まさかオッケーをもらえるとは思わなかった慎一は幸せだった。高校は違えど、楽しい男女交際が始まり、その幸せは二年生となった現在も続いている。
 傍目には順風満帆なお付き合い──だが。

(最近の梨花、元気ないよなぁ)

 小さな悩みがまた、慎一の頭をもたげた。
 もともと大人しい性格の彼女ではあったが、最近、グッと笑顔が少なくなった気がする。
 やはり学校が違うと、心も少しずつ離れてしまうのだろうか……と、少し落ち込んだとき。 ピロリンと慎一のスマホが鳴った。
 それは梨花からのメッセージで「ちょっと遅れるね」とのことだった。
 いつも早いのに珍しいな、と思いつつも「わかった」と返信をしようとしたとき。

「おい、ニーチャン」

 ドスの効いた男の声が聞こえ、慎一に影が落ちた。
 見上げればそこには、たちが悪そうな大男が一人、立ちふさがるようにいた。