真っ暗な車内で、相手の口元をみながらかすかに聞こえる声と口の動きで何を話しているのかを判断する綾乃は目も酷使していて、病院での点滴で和らいでいた頭痛も再び顔をゆがめるくらいの痛みになっている。

それでも、集中しないとならない。

責任のある仕事をしている以上、ここで体調どうこうと言っている場合ではない。

「新システムの設計図です。先方からの状況の聞き取りだと」
綾乃は車内で異常の起きているシステムの説明を始めた。

ギュッと自分の着ているダウンのジャケットの長い袖を握り閉める。


がんばらなきゃ。
がんばれる。まだ頑張れる。

そう自分に言い聞かせながら、現場へ向かった。