仕事でいつもイタリアン料理をつくっているからか、父が作ってくれた味を思い出しているのか、悟は家では和食を作ることが多い。
綾乃はもしかしたら、この子は日本料理の世界に進むのかもしれないと心のどこかで予感をしている。

「今日はレストランに行くから、お昼寝早くしようね。」
思うようなリズムで過ごせないのが子育てだ。
綾乃は出かけるときにぐずらないように、計算をしながら息子との一日をスタートさせた。

悟の友人だというシェフはイタリアン料理で有名な【WHITE】のオーナーシェフ。
悟の店の手伝いに直接来たこともあれば、市場での仕入れを一緒にしてくれたこともある。
知り合いのシェフに手伝いを仲介してくれたことも。
綾乃は雑誌やテレビで見たことしかない人と会うことに少し緊張していた。

最近は前の仕事のバイトも休んでいて、悟と息子以外の人と話をすることも、会うこともほとんどない生活を送っていた。だからこそ、緊張もするが楽しみでもあった。

久しぶりに化粧もすると考えながらいつもよりも早く昼寝をしている息子の隣で身支度を整えた。