運命が変えた一夜 ~年上シェフの甘い溺愛~

まだ眩暈は残っている。でもそれが貧血なのか耳が原因なのかが分からない。
「大丈夫」
いつものように強がる綾乃に、悟は困ったように微笑み返す。

「仕事、やっぱり行くの?」
「・・・今何時?」
「9時半」
「支度しなきゃ。」
綾乃の言葉に悟が綾乃の手をそっと握る。

「綾乃」
真剣な表情でまっすぐに瞳を見つめられると、綾乃は逃げられない。

「会社まで送ってく。帰りも迎えに行く。」
「レストランがあるでしょ?」
「最優先したいのは綾乃と、子供のことだろ。天秤にかけるまでもない。」
その言葉を信じたい。

なのにどうして自分はまっすぐな悟の言葉や想いを信じきれないのだろうか。
心から寄りかかれないのだろうか。

かわいくない。
素直じゃない。