「雪乃ならたぶん愛菜ちゃんの友達に見つかったって知らせに言ってくれてるんじゃないかな。友達がずいぶん心配してたから」


この時、一瞬彼の表情が和らいだことを見過ごさなかった。


さっきまで私に対してはいら立っていたのに。


雪乃さんのことを語るときの一瞬の安心感。


それに気がついたら、胸の奥がモヤモヤしてきた。


「そんなことまで?」


「凄く気の付く子だから。なんでも先回りしてやってくれる」


「……」


「愛菜ちゃん?」


「そうやって先輩は雪乃さんを利用してるんですか?」


小さく震える拳をぎゅっと握りしめた。


「え、なんて?」


「なんでもないです。もう、いいですから。ご迷惑おかけしてごめんなさいでした」


変な敬語が口をついて出ていた。


なんだか胸の奥がギュッと絞られるような感覚がして苦しい。


無意識に唇をかんでいた。


「愛菜ちゃん?まだ話は終わっていないよ。こっちを見て」


鋭い彼の視線に耐えられない。


「お説教ならもういいです」


こちらへ伸ばされた手を思わず振り払う。


「もう、いいですから」


語気を強めに叫んでサッカー部の部室から飛び出していた。