「彼氏でもできた?」
この言葉を聞いて、彼が私を「恋人」だと思っていないのだと、思い知らされた。
その上、「軽い女」と罵られた。

未来だけじゃなく、「今」すらなかった。

それでも傷付く覚悟をした上で、この結果を選んだのは、私自身だ。

「今しかない。」と思ったからだ。

いつも彼が帰った後、一人の広いだけの部屋に帰るより、彼との余韻が残ったホテルの部屋に泊まるのが、私の習慣になっていた。

でも、今は違う。

一秒でも早く、この部屋から出たい。
早く家に帰りたい。

私は必死に涙を乾かして、部屋を出た。

きっと、泣き腫らした顔の私を見たら、涼介は困るだろう。

涼介は、私が不倫をしていた事を知っている。
一度だけ、飲んでいた時に話したことがあるから。

「あゆが辛い思いをするだけだから、やめとけ。
誰かを不幸にする関係なんて、幸せになれないよ。」

珍しく真剣な表情で言ってたのを覚えている。

同居を始めてからも、私が何度か家に帰らない夜があった。
その次の日、涼介と会うのは気不味かった。

それでも私は今、誰かの気配を感じられる、温かい空気が流れる、あの家に帰りたいと強く思う。