最初の1週間は、「同居人」として品行方正に努めた。

何よりも気を遣ったのが、決して女の影や匂いを微塵も感じさせないことだった。もちろん、今はそんな関係の女性はいない。それでも、会社の同僚ですら遠ざけ、仕事以外の会話もしなかった。

あゆとはお互いの仕事や会社での出来事も話すことがある。その時に、女性の登場人物を出さないようにするためだ。
嘘だって付けるかもしれないが、女の勘は鋭い。簡単に男の嘘なんて見破る。

週末は、あゆを楽しませるために「ひたすら笑える映画」を調べて二人で観たり、決して酔わない程度のお酒を飲み、彼女を楽しませたり、俺は思い付く限りの「同居人」をやり切った。

その甲斐があってか、あゆは少しずつ、俺への警戒を緩めてくれた。

次の2週間は「友達」として接するように心掛けた。

毎日、帰りにコンビニ寄ってお弁当とビールを買い、あゆの隣で食べる。二人でいる時間を少しずつ増やしていった。

あゆの話を聞いて笑ったり、テレビを見ながら意見を言い合ったり。でも、決してプライベートには踏み込まない。アドバイスを求められれば、「友人代表」としての答えを探した。

3週間目のある日、遂に俺の努力は身を結んだ。

あゆが俺のためにカレーを残しておいてくれた。
俺は自分が買ってきた弁当なんて放り出したい気分だったが、それを我慢して翌日の夕食にした。
今まで食べたどんなカレーより美味しかった。